・日本製VS欧米製

日本製と欧米製の違いについて

「日本製のピアノは造りがしっかりしてそうですよね!」
「やっぱりヨーロッパ製は材質にこだわっているから値段が高いんでしょうか?」

皆様が抱かれているこうしたイメージについて、問い合わせやご意見等が多数寄せられます。
ここでは各メーカーとも力を注入しているグランドピアノについて、ザックリと私見を述べようと思います。

日本製ピアノの特徴

日本のトップメーカーの生産するピアノは、
相対的に工業的な面(部品の加工技術や寸法的な精度)において、
非常に優れている
ように感じます。
世界の各メーカーをみても高い水準にあることは間違いありません。

88鍵のタッチを均一に弾きやすく仕上げるためには、アクションや鍵盤等の各部品にゼロコンマ単位での精度が要求されます。
その点、より正確に造られている日本製ピアノは調整しやすく、鍵盤のタッチ感が比較的きれいに揃えられるので、多くの調律師が作業に助けられているのではないでしょうか。

ただピアノの奥が深いところは、いくら精度が完璧であっても、楽器の魅力はまた別であること。
日本のメーカーは良くも悪くも工業品として製造するためでしょうか、
音の響きがやや平面的な印象を受けることがあります。

この理由としては、楽器の要である響板を人工的に乾燥させて短期間で生産する工程が、ピアノの響きに少なからず影響を与えているように思います。もっとも、そのハイテク技術のおかげで、ピアノの大量生産と一般家庭でも手の届きやすい低価格が実現可能となっている訳ですが…。

何はともあれ、性能と価格のバランス、つまりコスト・パフォーマンスを考えるならば、日本製ピアノは全般的に優秀と言って良いでしょう。

*一定の品質基準のもと製造されていると言えど、そこは生の楽器。日本製であっても音やタッチには個体差が存在するのでご注意を。

欧米製ピアノの特徴

対して欧米の有名メーカーでは、長い年月をかけて木材を自然乾燥させてから楽器造りに着手しています。そうした工程の違いでしょうか響板の発する音が非常に敏感、より立体的な響きが楽しめます
その厳選された木の熟成した響きは、弾き手・聴き手に至福の時間と限りなく豊富な音のパレットを提供してくれるはずです。

デメリットは、なんといっても価格が高額であること。
欧米製グランドピアノは、数百万円からのラインアップになります。
また日本製と比べると、仕上げが少々アバウトで気になるときも…。
部品の精度が不揃いのためスムーズに調整できないときは、やはり外国製だなぁと痛感しますし、工場の出荷調整がお粗末なメーカーもあるので、現場の調律師が多々苦労している話をよく聞きます。

しかし調律・調整が中途半端な状態では、たとえどんなに素晴らしい名器といえど本来の性能は半減します。手間をかけて丁寧にメンテナンスしたとき、ポテンシャルの高いピアノは持っている魅力が格段にアップするので、調律師自身もビックリすることがあります。調整した結果、お客様にご満足して頂けたときは仕事冥利に尽きますね。
良質な欧米製ピアノは扱いがデリケートですが、ユーザーと調律師、双方にとって腕の振るい甲斐のある、まさに楽器と言えるでしょう。

~圧倒的な音量でホールを支配するスタインウェイ
~あたたかい木の響きを奏でるベーゼンドルファー
~透明感あるピュアな音色が魅力のベヒシュタイン
~芳醇な音響で次世代のピアノを担うファツィオリ

1000万円のご予算でお考えの方は、悔いのないよう試弾しておくべきピアノブランドになります。ぜひ音の“個性”を肌で感じて下さい!
音を聴いてみたい方はこちらをクリック!

結論としては

もちろん、以上に挙げたそれぞれの特徴については、あくまで一般論です。
細部まで丁寧に仕上げている欧米メーカーがあれば、残念ながら粗悪な日本製ピアノも存在します。
こんな質の悪い外国製だったら、国産メーカーの方が遥かに優れている!と感じるときもあります。

ついついピアノの品質と製造元のお国柄を連想してしまいがちですが、単純に型にはめて考えるのはNG!
いわば「日本人だから皆~だろう」とか「ドイツ人ならば~に違いない」と先入観で人を判断するようなものです。
○○製と表示されていても、必ずしも楽器の品質を保証するものではないのでご注意下さい。

☆POINT
「まず優先すべきは、そのピアノが“どこで製造されたか”ではなく、“どのような音がするのか”。
 日本製、欧米製、それぞれの音の違いを実際に体感してみましょう」
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■CASE STUDY ④ ○○製ピアノを再考する

日本製、欧米製の記述が、やや調律師の目線に偏ってしまったので、新たにお客様目線で○○製について少し考えてみました。
(産地偽装がニュースを賑わす御時世でもありますしね…)

いまや家電製品と同様、ピアノ製造の分野でも国際的な分業体制が一般化しています。海外のメーカーに製造を下請けさせる委託生産(OEM)は当たり前。人件費の安い東南アジアで組み立て、最終調整のみヨーロッパや日本で、といった手法も珍しくありません。
とくに廉価な商品(主にアップライトピアノ)を中心として、各メーカーが生産の合理化・効率化を推し進めているのがピアノ業界の実情。

このような状況で、産地、加工地、製造地を突き詰めて考えてみると○○製ピアノの定義や概念って曖昧に思えてきませんか?
ピアノは6000~8000もの部品の集合体ですから、仮にその各部品の原産国を全て特定しようとなると雲をもつかむような話となります。

そこで私が提案したいのは、もしあなたが気になったピアノがあれば内部の造りを必ず見せて貰うこと。どこでではなくどのように楽器が造られているのか音、タッチと合わせて着目しては如何でしょう。

画像はアップライトピアノの鍵盤を外して“棚板を比較したものです。
右下の某アジア製の造りにご注目。違いがお分かりになりますか?
ドイツ風の洒落たネーミング、外装も木目調で美しいデザインですが、実体はご覧の通り。初心者でもどの程度の品質であるか推測がつきますよね。中身ではなく外見で選ぶと痛い目に遭うことも…。

某日本製ピアノの内部。木材の変化に対応するために金属レールを組んでいます。
某ヨーロッパ製ピアノの内部。“徹底した木材のシーズニング(乾燥)”が必要な構造です。
某アジア製ピアノの内部。外観でもカタログ上のスペックでもなく“実際の内容”でご判断を。店員に遠慮なく内部を見せて貰うよう頼みましょう!